サイバー攻撃で狙われやすい企業の特徴

サイバー攻撃は、もはや一部の大企業や特定業種だけの問題ではありません。インターネット環境の普及やクラウドサービスの拡大により、あらゆる企業が攻撃の標的となるリスクを抱えています。特にセキュリティ対策が十分でない中小企業や、重要な情報を扱う組織は狙われやすく、一度被害を受ければ、業務停止や信用失墜といった深刻なダメージを受けかねません。

本記事では、サイバー攻撃者が狙う企業の特徴や、実際に起きている攻撃手口、企業が取るべき具体的な対策について、わかりやすく解説していきます。まずは、自社が攻撃対象になりやすい状況にあるかを知ることが、リスク対策の第一歩です。

サイバー攻撃者に狙われやすい企業の特徴

サイバー攻撃者は、無差別に攻撃しているわけではありません。実際には、侵入しやすく、利益が見込める相手を冷静に選んでいます。とくにセキュリティの隙が多く、防御が弱い企業は格好の標的となります。ここでは、攻撃者に狙われやすい企業の共通点を整理し、自社の状況と照らし合わせて見直すための視点を紹介します。

セキュリティ対策が甘い

サイバー攻撃者にとって、セキュリティ対策の甘い企業は入りやすい標的として優先的に狙われます。特に中小企業に多いのが、「自社は規模が小さいから大丈夫」という油断によって、最低限の対策すら講じていないケースです。

たとえば、ウイルス対策ソフトを導入していない、ファイアウォールを適切に設定していない、ネットワーク機器の初期設定が放置されているといった状況では、攻撃者にとって侵入のハードルが非常に低くなります。

また、セキュリティポリシーが存在しない、もしくは形骸化している企業も少なくありません。管理ルールが不明確であると、従業員が不用意にUSBを接続したり、不審なメールの添付ファイルを開いたりするリスクが高まります。こうした“人の脆弱性”も、対策の甘さの一因です。

さらに、脆弱性のあるシステムやソフトウェアを使い続けることも大きなリスクとなります。更新が滞っていれば、既知の脆弱性を突かれて侵入される可能性が高くなります。攻撃者はスキャンツールなどを使って、こうしたセキュリティの穴を常に探しており、防御の甘い企業は真っ先にターゲットにされてしまうのです。

取引先に大企業がいる

サイバー攻撃者は、直接侵入が難しい大企業に対して、取引関係にある中小企業や関連会社を“踏み台”として狙うケースが増えています。これは「サプライチェーン攻撃」と呼ばれ、特定の企業を標的とする際に、その周辺にあるセキュリティの甘い企業を先に侵害し、そこから情報や権限を得て本来の標的にアクセスする手法です。

中小企業や下請け企業がセキュリティ対策にかけられるリソースは限られており、攻撃者から見れば、比較的容易に侵入できる“入り口”となってしまいます。たとえば、業務用のアカウント情報を盗まれたり、納品データを装ってマルウェアを送り込まれたりすることで、大企業のネットワークにまで影響を及ぼす事例が報告されています。

取引先に大企業がいるというだけで、自社が間接的な標的となる可能性があることを意識する必要があります。業務の信頼性を保つためにも、連携先との情報共有・セキュリティ水準の統一を進めることが重要です。

重要な個人情報や機密データを扱っている

顧客の個人情報や取引先との契約書、設計図や研究データなどの機密情報を保有する企業は、サイバー攻撃者にとって非常に魅力的なターゲットとなります。こうした情報は、闇市場で高値で取引されることもあり、金銭目的の攻撃者にとっては“価値ある資産”として認識されているのです。

とくに、医療・福祉・教育・製造業などでは、個人情報や知的財産、内部文書を多く扱うため、常にリスクと隣り合わせの状況にあります。これらの情報が漏洩すれば、取引停止、訴訟、行政指導など、深刻な経営ダメージにつながりかねません。

また、情報そのものだけでなく、「どこに保管されているか」も狙われます。クラウドや外部ストレージなどに分散して保存されているケースでは、アクセス管理や権限設定のミスによって情報が漏洩することもあります。

重要なデータを扱っている企業は、保存・共有・運用までを含めて、情報資産全体のリスク管理が不可欠です。技術的な防御と運用ルールの整備を両輪で進めることが求められます。

クラウドやテレワークを導入しているが対策が不十分

クラウドサービスやテレワークの普及は業務効率を大きく向上させましたが、それと同時に新たなセキュリティリスクを生み出しています。特に、導入後に対策や運用ルールが整備されていない企業では、情報漏洩や不正アクセスの危険性が高まります。

たとえば、クラウド上に保存されたデータのアクセス権限が適切に管理されていない場合、本来関係のない従業員や外部からでも情報にアクセスできてしまうリスクがあります。また、無料のクラウドサービスや個人アカウントを業務で流用しているケースも多く、セキュリティの保証が不十分なまま使われていることも珍しくありません。

テレワーク環境では、自宅や外出先など社外のネットワークを利用する機会が増え、通信の暗号化やデバイス管理が不十分なまま業務が行われることが問題になります。私用PCの利用や公共Wi-Fiの使用も、サイバー攻撃の入口となり得ます。

利便性と引き換えに新たな脅威が生まれる現代において、クラウドやテレワークを活用する企業は、専用のセキュリティ対策を講じることが必須です。導入して終わりではなく、継続的な管理と従業員の運用意識も含めた体制整備が重要です。

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従業員のセキュリティ意識が低い

サイバー攻撃の多くは、技術的な脆弱性だけでなく、人の行動ミスを狙って仕掛けられます。従業員のセキュリティ意識が低い企業では、不用意なメール開封や不正サイトへのアクセス、簡易なパスワードの使い回しなどが日常的に起こり、攻撃者にとって格好の標的になります。

たとえば、実在の取引先を装ったメールに添付されたファイルを開いたことでマルウェアに感染し、社内ネットワークが乗っ取られたという事例は後を絶ちません。また、「パスワードをメモに書いて机に貼る」「社外に資料をUSBで持ち出す」といった軽率な行為が、情報漏洩や外部攻撃の引き金になることもあります。

さらに問題なのは、多くの企業でセキュリティ教育が一度きり、もしくは実施されていないことです。社員全員が「自分は狙われない」と思っている限り、リスクは常に潜んでいます。

組織全体で情報リテラシーを高めるには、定期的な研修や実践的なトレーニングの導入が有効です。ポスターや社内掲示などの啓発活動も、日常的な意識づけに役立ちます。技術だけでなく、人の意識こそが最も重要な防御の一部なのです。

最近のサイバー攻撃の手口と被害

サイバー攻撃は年々巧妙かつ悪質になっており、単なるウイルス感染にとどまらず、組織全体を機能停止に追い込むような被害が相次いでいます。攻撃手法の多様化により、従来の対策では防ぎきれないケースも増加しています。ここでは、近年特に被害が深刻化している代表的な手口と実際の被害例を取り上げ、攻撃の脅威を具体的にイメージできるよう解説します。

ランサムウェアによる業務停止や金銭要求

ランサムウェアは、感染した端末やサーバーのデータを暗号化し、元に戻すための「身代金」を要求する悪質な攻撃手法です。従来は金銭目的の犯行が中心でしたが、近年では業務停止や社会的混乱を引き起こすことを目的としたケースも増えています。

この攻撃は、従業員が不用意にメールの添付ファイルを開いたり、不正なリンクをクリックしたりすることから始まることが多く、知らないうちに社内ネットワーク全体に感染が広がります。被害が進行すると、サーバーや業務システムが使用不能になり、工場のライン停止や医療機関での診療中断など、社会的な影響にまで発展することもあります。

さらに最近では、「二重恐喝」と呼ばれる手口も登場しています。これは、暗号化されたデータを復旧する代わりに金銭を要求するだけでなく、盗み出した情報を外部に公開すると脅して、追加の支払いを求めるものです。企業側が支払いに応じた場合でも、完全な復旧が保証されるとは限らず、再感染やデータ漏洩のリスクが残ります。

ランサムウェアは、あらゆる業種・規模の企業が対象となる脅威です。感染経路の遮断と、万一の備えとしてのバックアップ体制の強化が、被害を最小限にとどめる鍵となります。

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不正アクセスで顧客情報が流出

不正アクセスは、企業が保有するサーバーやクラウド環境に対して、第三者が不正な手段で侵入し、情報を盗み出す行為です。とくに狙われるのは、顧客の氏名、住所、電話番号、クレジットカード番号など、外部に漏れることで悪用されやすい個人情報です。

攻撃者は、パスワードリスト攻撃やブルートフォース攻撃などを使い、脆弱な認証システムに侵入を試みます。ログイン情報が流出していた場合、その再利用を通じて企業アカウントにアクセスされる危険性も高まります。また、クラウドサービスのアクセス権限設定が甘い場合、本来アクセスできないユーザーにまで情報が閲覧されてしまうケースもあります。

一度情報が流出すれば、その損害は計り知れません。顧客からの信頼は大きく失われ、補償対応や行政処分、風評被害などが企業の存続を揺るがす事態にもつながります。最近では、被害が発覚した段階で速やかに公表する義務が求められるようになっており、対応のスピードと誠実さも問われるようになりました。

情報管理は「社内で完結する」ものではなく、システム設計から運用まで一体で見直すべき領域です。アクセス制御の強化や多要素認証の導入により、不正アクセスのリスクを下げる努力が求められます。

取引先を経由したサプライチェーン攻撃

サプライチェーン攻撃とは、攻撃者が直接標的にするのではなく、その取引先や外部委託先といった“周辺企業”を経由して侵入する手法です。大企業や官公庁のようなセキュリティ対策が厳重な組織であっても、外部との接続経路を通じて攻撃されるリスクが高まっています。

たとえば、システム開発や保守運用を委託しているITベンダーが標的にされ、そこから本体システムに侵入されるというケースが代表的です。また、部品供給や物流管理などの業務を担う企業が狙われ、そこから業務アプリケーションを通じて攻撃される例もあります。

このような攻撃の厄介な点は、取引先に依存する部分が多いため、自社だけの努力では完全に防ぎきれないことです。とくに中小企業では、サイバー対策の予算や人材が限られており、その隙を攻撃者が突いてくるのです。

対策としては、取引開始時にセキュリティ基準を確認し、共通のルールやチェック体制を構築することが重要です。必要に応じてセキュリティ監査や契約書への明記も行い、組織の枠を超えて「連携して守る」という意識が求められます。

メール添付やリンクを使った標的型攻撃

標的型攻撃とは、特定の企業や組織を狙い撃ちにし、業務情報や機密データを盗み取るサイバー攻撃の一種です。中でも多く見られるのが、メールを利用した手法です。取引先を装ったメールに不正な添付ファイルやリンクを仕込み、開封した相手の端末をマルウェアに感染させて内部に侵入します。

これらのメールは巧妙に作られており、実在の人物や過去のやり取りを模倣した文面で、受信者に違和感を与えないよう工夫されています。件名や署名に取引先企業名が使われていることも多く、普段から業務メールを扱う従業員ほど、油断して開封してしまう可能性が高くなります。

一度感染が広がれば、社内ネットワーク全体が監視されたり、データが外部に送信されたりする危険性があります。攻撃者は長期間潜伏し、重要なタイミングで情報を抜き取るなど、被害が表面化するまでに時間がかかるのも特徴です。

防止には、不審なメールを見抜くリテラシーの向上に加え、メールフィルタや添付ファイルの自動スキャン機能の導入が有効です。さらに、標的型攻撃を前提としたセキュリティ体制の整備が、今後ますます重要になるといえるでしょう。

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サイバー攻撃を防ぐために必要な対策

サイバー攻撃の手口は日々進化しており、単にウイルス対策ソフトを導入するだけでは不十分な時代になっています。被害を未然に防ぐには、技術的な対策と人の運用意識を組み合わせ、複数の層で防御を固める必要があります。ここでは、企業が最低限取り組むべき実践的な対策を具体的に紹介し、自社に不足している部分を見直すヒントをお伝えします。

ウイルス対策ソフト・ファイアウォールの見直し

ウイルス対策ソフトやファイアウォールは、サイバー攻撃から企業を守るための基本的な防御手段です。しかし導入しているだけで安心してしまい、設定の見直しや運用が放置されているケースも少なくありません。時代とともに脅威は進化しており、対策も常に最新の状態に保つ必要があります。

ウイルス対策ソフトについては、定義ファイルの自動更新が正しく行われているかを定期的に確認することが重要です。また、従来型のウイルス検知だけでなく、振る舞い検知や未知の脅威への対応が可能なソリューションにアップグレードすることも検討すべきです。

ファイアウォールに関しても、初期設定のまま運用している企業は注意が必要です。許可されている通信ルールが適切であるか、不要なポートが開放されていないかなど、セキュリティポリシーと実運用が合致しているかを定期的にチェックする必要があります。

また、社内ネットワークだけでなく、クラウドサービスやテレワーク環境に対応した次世代ファイアウォール(NGFW)の導入も有効です。防御の「基本」を再確認し、現状の運用と脅威にギャップがないかを見直すことが、より強固なセキュリティ体制の第一歩となります。

パスワード管理と多要素認証の導入

パスワードは、システムやサービスにアクセスする際の第一の防壁です。しかしながら、いまだに「123456」や「password」など推測されやすいパスワードが使われていたり、同じパスワードを複数のサービスで使い回したりしているケースが後を絶ちません。こうした管理の甘さが、不正アクセスの大きな要因となっています。

パスワードを強化するためには、英数字・記号を組み合わせた複雑な文字列を使用し、定期的に変更する運用が推奨されます。また、個人任せにせず、企業としてパスワード管理ツールを導入することで、安全かつ効率的に運用できる環境を整えることが重要です。

さらに、近年注目されているのが「多要素認証(MFA)」の導入です。これは、IDとパスワードに加えて、スマートフォンへの通知やワンタイムパスワードなど、複数の認証要素を組み合わせることで、万が一情報が漏洩しても不正ログインを防ぐ仕組みです。

とくにリモートワークやクラウドサービスの利用が拡大する中、社外からのアクセスに対して多要素認証を設定しておくことは、企業全体のセキュリティ水準を引き上げる有効な手段です。手間がかかると思われがちですが、被害のリスクを考えれば十分に導入する価値があります。

従業員へのセキュリティ教育

サイバー攻撃の多くは、従業員の不注意や判断ミスをきっかけに発生します。どれほど高度な技術的対策を施していても、利用者の知識や意識が追いついていなければ、防御は機能しません。そのため、従業員一人ひとりに対するセキュリティ教育は、組織全体の安全性を高めるうえで不可欠な取り組みです。

教育の内容は、標的型メールの見分け方や、怪しいリンクへの対応、USBや私用デバイスの取り扱いなど、日常業務に直結する具体的な事例を盛り込むと効果的です。加えて、SNSやクラウドサービスの利用に関するリスクについても啓発しておくことが望まれます。

特に重要なのは、教育を一度きりで終わらせないことです。サイバー攻撃の手口は日々変化しており、従業員の知識も定期的にアップデートする必要があります。年1回の研修に加え、社内報やEラーニング、簡易テストなどを活用し、継続的に意識づけを行うことが効果的です。

また、情報セキュリティを「自分ごと」として捉えてもらうためには、上層部の関与も不可欠です。管理職が率先して取り組むことで、全社的な取り組みとして浸透させることができます。人的リスクを抑えるには、全員参加の教育体制が鍵となります。

システムやソフトの定期的なアップデート

サイバー攻撃者の多くは、既知の脆弱性を突いて企業システムへ侵入を試みます。したがって、使用中のOSや業務ソフト、プラグイン、ファームウェアなどを常に最新の状態に保つことは、最も基本でありながら効果的な防御策のひとつです。

アップデートを怠ると、すでに修正されているはずのセキュリティホールがそのまま放置されることになり、攻撃者にとっては格好の侵入経路となってしまいます。特に公開サーバーや外部と接続するクラウドサービスでは、常に最新パッチを適用することが求められます。

実際、過去には有名なソフトウェアの未更新が原因で、広範囲に感染が拡大した事例も報告されています。これらは「パッチ適用の遅れ」によって防げた可能性のある被害であり、企業にとっては基本動作の徹底がいかに重要かを示しています。

アップデートは業務時間中に実施しづらいという事情もありますが、自動更新設定の活用や、夜間・週末に実行できるスケジュールの工夫によって対応可能です。また、アップデートの影響を検証するためのテスト環境を整備しておくことで、業務への影響も最小限に抑えられます。

更新は「後回しにされやすい」項目の一つですが、定期的なチェックと運用ルールの整備を通じて、確実に実施する仕組みを作ることが重要です。システムの健全性を保つことが、企業全体の信頼性にもつながります。

取引先・委託先とのセキュリティ連携

自社のセキュリティ対策を強化していても、取引先や委託先の管理が不十分であれば、思わぬ経路からサイバー攻撃を受けるリスクがあります。とくに業務システムの一部を外部ベンダーに委託している企業や、取引先とファイル共有や通信を日常的に行っている企業では、連携先の脆弱性が自社の被害につながる恐れがあります。

サプライチェーン攻撃のように、攻撃者はまず防御の甘い企業に侵入し、そこから本来の標的にアクセスすることがあります。このような事例を未然に防ぐためには、自社と関係するすべての外部パートナーと一定のセキュリティレベルを共有し、連携して管理していくことが重要です。

具体的には、取引開始時にセキュリティチェックリストの提出を求めたり、契約書に情報管理に関する条項を盛り込んだりする方法があります。また、年に1回などの定期的なセキュリティ評価やアンケートによって、現状を可視化することも有効です。

さらに、共同でインシデント対応の手順を整備しておくことで、万が一のときにもスムーズに連携した対応が可能になります。社内だけでなく、外部との関係まで含めた全体最適の視点が、これからのセキュリティには求められます。

それでも狙われる時代にどう備えるか

どれほど対策を講じても、サイバー攻撃のリスクを完全にゼロにすることはできません。巧妙化する手口や、新たに発見される脆弱性により、企業は常に狙われる前提で備える必要があります。重要なのは、被害を受けたときに迅速かつ的確に対応できる体制を構築しておくことです。ここでは、万が一の被害に備えるために企業が取り組むべき備えについて解説します。

被害時の対応マニュアルを用意しておく

サイバー攻撃を完全に防ぐことが難しい今、万が一の被害に備えておくことは企業にとって不可欠です。とくに重要なのが、インシデント発生時に迅速かつ的確に対応するための「対応マニュアル」の整備です。これは、発見から報告、初動対応、外部への連絡、復旧までの流れを明確にした文書であり、混乱を最小限に抑える鍵となります。

攻撃が発覚した際、初動が遅れると被害が拡大する恐れがあります。対応マニュアルがあれば、誰がどのように動くべきかが明確になり、冷静な判断と行動が可能になります。たとえば、情報システム部門だけでなく、広報、法務、人事といった各部門との連携手順を定めておくことで、対応の遅れや対応漏れを防ぐことができます。

さらに、警察や関係機関、取引先、顧客への報告のタイミングや文言も、あらかじめ準備しておくことで信頼性のある対応が実現できます。定期的な訓練や模擬演習を通じて、実際の運用に耐えうる体制を維持することも大切です。

セキュリティ対策は、攻撃を防ぐことと同じくらい「攻撃を受けたあとの対応」によって企業の評価が分かれます。備えがあるかどうかが、危機を乗り越える力につながります。

ログ管理とバックアップ体制の強化

被害発生後の調査や復旧を迅速に進めるうえで、ログ管理とバックアップは不可欠な要素です。ログは、誰がいつ、どのシステムにアクセスしたのか、どのような操作が行われたのかを記録するもので、不正アクセスの特定や原因追跡に役立ちます。

しかし、ログを取得していても、必要な範囲をカバーできていなかったり、保存期間が短かったりすることで、活用できないケースも少なくありません。重要なのは、ログの「収集・保管・分析」がセットで行える仕組みを整えることです。SIEMなどのログ管理ツールを活用すれば、異常の早期発見にもつながります。

一方、バックアップは、データ消失やランサムウェアによる暗号化に備えるための最終手段です。重要データを定期的にバックアップし、本番環境とは別の安全な場所に保管しておくことが基本です。さらに、物理障害や攻撃から守るため、オフラインやクラウド上のバックアップを組み合わせることが望ましいです。

また、バックアップは「保存するだけ」で終わらせず、復元テストを定期的に実施しておくことが重要です。いざというときに正しく復元できなければ意味がありません。ログとバックアップの強化は、サイバー被害からの「回復力」を高める基盤として、常に整備しておくべき項目です。

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外部専門家との連携

サイバー攻撃の手口は高度化・複雑化しており、自社だけで対策・対応すべてをまかなうのは現実的ではありません。限られた人員や予算の中で適切なセキュリティ体制を維持するには、外部の専門家と連携し、必要な支援を受けることが有効な選択肢となります。

たとえば、セキュリティベンダーやコンサルティング企業に診断を依頼することで、自社の脆弱性やリスクの洗い出しが可能になります。また、CSIRT(Computer Security Incident Response Team)やSOC(Security Operation Center)などの外部組織と契約しておけば、インシデント発生時に迅速な対応や技術支援を受けることができます。

特に中小企業では、社内に専門的な知識を持つ人材を確保するのが難しいため、外部パートナーとの関係構築が重要になります。定期的な監視サービスの導入や、教育コンテンツの提供を受けることによって、日常的な運用レベルも引き上げることができます。

また、法的対応や広報対応など、技術以外の分野でも外部の力が必要になる場面は少なくありません。企業の信頼を守るためにも、平時から相談できる体制を整えておくことが、結果的に被害の最小化につながります。

まとめ

サイバー攻撃は、もはや他人事ではありません。攻撃者は防御が甘く、情報価値の高い企業を狙ってきます。特に中小企業や委託先、情報を扱う業種はリスクが高く、自社がどのような立場にあるかを正しく認識することが重要です。

攻撃手口は巧妙化しており、従来の対策だけでは不十分な場面も増えています。だからこそ、「狙われる前提」で備え、技術・運用・教育・連携の4つの視点で多層的な防御を整えることが求められます。

万が一の事態にも対応できる体制をつくり、被害を最小限に抑えること。それが、これからの企業にとって欠かせないセキュリティ戦略といえるでしょう。